2018年12月11日火曜日

ゆで卵は2つで。前編


とある土曜日


大阪でのレッスンの後


見知らぬ人たちと見知らぬ電車に揺られ


家とは逆方向へ。






特急は読めない漢字の駅をどんどん飛ばしてゆく


そして


降り立った見たことのない景色を目の当たりにすると


静まりかえった夜遅い時間のせいか


何より耐えられないのは孤独ではないだろうか



と思う。


都会だからこそ


この、昼と夜での「ヒトの温度差」をより一層強く感じるのだろう。



この地は震災でたくさんの命が失われた


まだ炎もあがり煙燻る地震直後にボランティアで入った知人は言った


人間があんな風になってしまうのか


それを聞いて僕は


ヘビ花火の燃えカスを思い出した



帰る家がある


あなたを待っている人がいる

あなたが待っている人がいる


ほんのささやかな繋がりが前に進む力をくれる


どこにだって悲しみは見え隠れするもの


サンドイッチみたいに





目が覚めたら神戸だった


そうだった




ちょっと驚いた



大きな駅前のターミナルに大型バスが4

信号を待って四国へ帰って行った。


駅前の駐輪場は車のコインパーキングの様にゲート式で、

「空」「満」の電光サインがあった。


あんなの滋賀では見たことない





ふと


朝ご飯がまだだったのを思い出して目の前に現れた喫茶店に入った


朝一番の喫茶店には、おばあさんの1人客が多かった


でも


それがオシャレだなって思う


先にカウンターで注文と支払いを済ませると

どんな人が来るのか見たくて、ちょっと寒いけれど

入り口に近い席に座った。



この席からは店に入ってくる人を観察できて

みんなの注文まで聞き取れた。


レジの女性は、あるおばあさんが近づくと笑顔になった

きっと常連なんだろう。



モーニングを頼んだおばあさんはさりげなく付け加える


ゆで卵は2つでね。


スポーツ新聞を2つ取って

僕の隣の席に座ったおばあさん



神戸


なんだか良い街だなって思う


びわ湖とどっちが良いかな?


そんな事をぼんやり考えていたら


5人連れの五十代くらいのおばさん達がゾロゾロと入ってきた

全員グレーの全く同じダウンを着てガヤガヤと何やら話している


封筒をのぞき込んで、千円札を何枚か引っ張り出した1人が

ここのは会費の残りから出そうと言っているのが聞こえる


何かの集まりの帰りなのかな


何の集まりだろう?


早朝ボーリング

とかかな?


勝手に「早朝ボーリング婦人会」と決めつけた。





1番入り口に近い席には、僕が入ってきた時から座っているおじさん

ずっと独り言で何やらグチグチ怒っている。


グチグチ、グチグチ、、、


僕が食べ終えた頃にひとりのおばさんが入って来て、そのおじさんの席に座った

するとおじさんは怒り爆発

もー何しとったんやー

そっちに合わせて時間ずらしてんのにー


ごめん、ごめん、

と頭を下げるおばさん


6時に目覚ましかけたんやけどなー

切ってしもたんやー


もー!なんで切ったんやー目覚ましー!


このまま気まずいのかなって思ってたけど

ひと通り怒ったら、すぐにおじさんが優しい声になり


ほんで、何頼むの?



親が子供を叱った後のような180度切り返しのごとく穏やかになった

その後は仲良く話している。


よく分からないけれど


おじさんの優しさと言うか、おばさんへの想いが滲み出て

こちらまでふんわり包まれて、不思議と僕もあたたかくなった


ところで


あの人たちはどんな関係なんだろうか


親子?

にしては歳が近いかな


夫婦?恋人?

という感じでもなかったな


兄弟?


そうだ


きっと兄弟なんだ



勝手に人を兄弟にしたところで


外を見たら陽射しが強く、そして明るくなり

白と緑の市バスに反射してキラキラしている。


そして


また店内に目を戻すとレジに並んでいたのは

耳が隠れる航空帽に飛行機乗りの服のようなものを着た

背の低いおじいさん。


それはさながら、特攻隊のコスプレだった


そして


とにかく背が低い


もう何かの妖精と言っていいくらい


村上春樹の小説なら井戸の中にいそうなおじさんだった。


誰も気にしてないから僕にしか見えてないのか?

見るからにものすごい度数の眼鏡をかけていて注文し終わったら


各テーブルの椅子をキレイに整え始めた

キビキビ、キビキビ

そんなおじさんの姿を追っていたら

いつのまにか隣のゆで卵のおばさんはいなくなっていた



さようなら


僕もそろそろ行くよ。


クジャクみたいなマフラーをしたおばさんとすれ違いながら店を出て

少し歩いて地下鉄に乗ろうと思ったら、それは海岸線だった


そうか


路線がいくつかあるんだね


知らない街というのは本当に楽しい


そしてしばらく歩くと僕が乗る路線の入り口にたどり着いた


それは、西神・山手線といった。



(続く)


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