2018年9月25日火曜日

物語。


昨日歩いていたら

ひげに蜘蛛の巣がからまった


それで慌てて手で払ったのだけど


ひげにはいろんなものがからまる。


顔を洗った時はついつい

ひげを洗う事を忘れてしまう

だから大体3日に一回くらい洗う


猫を撫でるように優しく整えているおじいさんの長いひげはどうやって洗うのだろう


シャンプーをして、たまにはトリートメントもするのだろうか

トリートメントをつけて5分くらいじっと待っているのだろうか


耳の洗い方も

散髪に行く周期も

暇な時間にすることも

本を読む姿勢も

一人で車を運転している時の鼻歌も


きっと人それぞれ。



昨日

いつもの道を車で通ったら

日曜日なので混んでいると思っていたのに意外にすいていた

ラッキーと思っていたら、急に混みだした


どうしてこんなところで。


列の後ろについて停まった僕の車の横

後ろから歩道を歩いてきた4人連れの家族

中学生くらいの女の子が二人

お父さんとお母さん

だろうと思う、きっと。


秋晴れにしては夏に戻りかけた蒸し暑い日曜の昼下がり


家族で歩いていても何ら違和感は無いのだが

何故か違和感があるもので


それは全員

全身が真っ黒けの服装からなのか

全員がタオルを首に巻いているからなのか


こんな田んぼと小さな川しかない抜け道を

ちょっとそこまで、というには

どこから来てどこへ向かうというのだ


僕は

新しい宗教かな

と思った。



ノロノロと前の車が動きだした


僕もじわじわと進んで行くと

大きな広場にバスがたくさん停まっているのが見えて来た


それで僕は

やっぱり新しい宗教かな

と思ったのだけれど


気がつくと

向かい側の歩道にも沢山人が歩いていて

みんなバスの広場に向かっている。


若い大学生くらいの男女6人くらいのグループ

スーツケースをゴロゴロ転がしている三十過ぎくらいの女性

一本の黒い日傘を二人でさしているカップル


大体

みんな黒くて首にタオルを巻いている


そうか


「真っ黒タオル教」の人たちだ


そうに違いないと考え出した頃


道の先に何やら看板があり



「イナズマロックフェス」

「バス乗り場」


ああ

今日だったのか


確かにフェスに行きそうな格好だな


「真っ黒タオル教」ではなかった。


でも


本当に大勢がぞろぞろとあちこちの方角から歩いて来ていて

それは駅の方からが多いのだけれど

駅から歩いたら2Kmはある。


蒸し暑い昼下がりにみんな汗を拭いながら歩いている


横断する人やバスを誘導する警備員が車を停めるので

僕の車はなかなか進まない


そうすると

世の中には本当にいろんな顔の人がいるものだな

と見てしまう


あれはきっと他府県から来た人たちだな。


どういう顔が「滋賀県顔」なのかわからないけれど

何となく

他府県の眉毛と他府県のほっぺたと他府県のくちびるだ


話している声も聞こえないし

人には車みたいにナンバーはついていないので

よくわからないはずなのに

不思議とわかる


気がする


ひげの人はいなかった気がするけど


耳の洗い方はみんないろいろ

今日の日までどんな道を歩いて来たのだろう

昨日の晩は誰と何を食べたのだろう

その時はどんな話をしたのだろう


少なくとも

どこかでイナズマロックフェスを知り

誰かを誘い

どこかでチケットを買い

どこで降りるのか調べて

駅まで電車に乗って来た

その電車賃もその日過ごすお金も用意してある


人はそれらのことをそんなに苦労なく

あっさりとやり過ごす


そしてそれは自分の物語のほんの1ページに過ぎない


その前のページにはどんな物語が記されているのだろうか


自分も忘れてしまうほど膨大な物語が

本にしたら引越し屋さんが腰を抜かす量で

ハードディスクにしたら「ものすごいテラバイト」で

今も更新されている。


人は物語であり

この地球には物語が溢れている


忘れてしまうような何気無い毎日も

積み重なれば尊い意味を持つ


他の誰かにとってはとっても新鮮なことで

まるで小説を読んでいるかのように旅に出ることができる

何と素晴らしいことか

誰もが誰かを旅へと誘う搭乗券を持っている


僕は道に歩いていたみんなの物語を読んでみたくて仕方なかった。

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